日本のゲイ・エロティック・アートVol.3: ゲイ雑誌の発展と多様化する作家たち
三**月
遅きに失した武内条二
このシリーズは第一作から購入して来た。12年余り前に第二巻が出た時、収録されるべき武内条二氏の作品が掲載されていなかった為、いたく失望したことを憶えている。それが今回ようやく採録される運びと相成った。ところがである。待ちに待った挙げ句、本書に載っていた武内条二氏の作品は悉く原画からではなく「印刷物からの複写」だとの由。編者の解説を読んで事情が分かったものの(また結果論でしかないとは言い条)、それなら第二巻に印刷物からの複写でよいので当時入手できた範囲内で同氏のイラスト類を収めておいて貰いたかったものである---そして新たに原画が入手出来たり、先巻に洩れた秀作があれば第三巻161頁以下の「付録」箇所に武内条二補遺として収録した頂きたかった---。まことに残念な限りだ。と同時に原画を返却せずに事実上「紛失」してしまった砦出版の責任者には憤りを覚える次第である。またカラーで何ページかに亘って載せられている雑誌『アドン』表紙絵は、懐かしい作品ばかりなれど、忌憚なく言えば「ゲイ・エロティック・アート」ではなく、一般的な「ゲイ・アート」に過ぎない。私事ながら当時『ムルム』誌に連載記事を書いていたので、今でも同誌の大半を所持しているが、武内条二氏の作品にはもっとエロティックな絵物語やイラストの数々があった筈だ。その意味でも原画紛失は返す返すも惜しまれてならない。さらに苦言を呈するならば、『日本のゲイ・エロティック・アート』を題としながら、この三部作は絵画部門はあっても、矢頭保を筆頭とする「写真藝術」は一切含まれていない。手遅れにならないうちに、写真をはじめとする視覚藝術類の選集を急いで編んで頂きたいものである。 なお、これは編集部の問題であろうが、p.10の最下段に「本書制作にあたって、印刷物(雑誌など)を提供してくれた方々に、この場を借りてお礼申し上げます」という一文がある。いくら敬語が衰退し果てた現今とはいえ、書籍に携わる人間としての矜持があるならば、最低限度の常識・礼儀というものを弁えて貰いたいと切に願う。言わずもがなのことながら一言申し添えたい。
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